私たちが見つめているものは、決して永遠ではない。
何のために写真を撮るのか。 そう聞かれたら、こう答える。 -その瞬間を写し止めたいという欲があるから- -その時の感動を、思いを、気持ちをとどめておくため- -その状況の空気やにおい、湿度や温度を思い出すため- 茅場町の展示「残像-tsugumi-」について少し。
ロケは冬が終わりを告げた日の午後だった。
私と彼女は滝に続く草むらに佇んで居た。
彼女はおもむろに植物採集をはじめ、
私はそれをファインダー越しにそっと見つめる。
私は遠くから、その姿を追った。
彼女は画家だ。 見つめるものは深く、 無限を感じる”何か”をライフワークとして描いている。 時折、頬を撫でる優しい風が衣をそっと揺らすも、 足元の草花や冬の置き土産である木の実、 枝から舞い落ちた木の葉達から 彼女が目を逸らすことはない。 まるで表現のモチーフを渇望するかのように 手にしたものを見つめては、次またその次と瞳は動く。 瞬間、少し力を帯びた風が彼女の中心を襲った。 手のひらの拾得物をギュッと握りしめ、 彼女は空を見つめながら耐えてみせた。
風が止むと彼女は再びこうべを垂らし、採集は続いた。 真実を見つめて歩く姿に躍動感はなく、 まるで平行移動する魂のように滑らかに地をなぞる。 浮わついた薄い感動を嘲笑うかのような、
どっしりと重たい真理がそこには在った。
夕暮れとともに、採集も撮影も終了したが、 目を閉じればすぐそこに、彼女の像が残る。 幻が現実なのか。 現実が幻なのか。 あの時感じた、少しだけ湿気を含んだ緑の香りが今、私の鼻をかすめる。
-像を重ね、見てくださるあなたと私がその瞬間を共有できたなら- そう願い、透明の二重像をギャラリーの壁に浮かべた茅場町の展示。 ご来場いただきまして、ありがとうございました。
**残像-tsugumi-は彼女のアトリエで再編成し公開いたしました model : tsugumi(painter ,artist)
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